では最後に総合性能が試される実使用について見ていきましょう。ここでは総合性能の指標として動画編集、楽曲制作、3DCGの性能をご紹介します。また、ここでは実使用で問題となるソフトの対応状況などにも触れていきたいと思います。
M1 ProとM1 Maxは、ProRes、HEVC(H265)、H264といった圧縮形式の動画を専門に処理するメディアエンジンや、機械学習を高速化するNeural Enginを搭載しています。また、実際の処理速度はCPUやGPUだけでなく、メモリスピード、OS・ソフトの最適化によっても変わることが多いですから、こういったポイントがどのように性能に現れているかにも注目です。
なお、ソフトの動作を比較する際には可能な限り同じ素材や環境でテストをすることが理想ですが、残念ながら今回は実機が手元にないため、YouTubeでのレビューやネット上のレビューをもとに評価していきたいと思います。ですのでこれから紹介する内容に関しては同じ条件下でのテストというわけではありません。あくまでネット上の意見の総括ぐらいの気持ちで見ていただければ幸いです。
ではまず動画編集の性能から。動画編集に関しては近年YouTubeをはじめとした誰でも簡単に動画をアップロードできるプラットフォームが充実してきたことから、一般の方にとっても身近な作業で多くの人が重要視する項目かと思います。
動画編集性能については多くのYouTuberさんがレビューしてくれていますので、参考になると思われる動画をいくつか張っておきます。もしお時間が許すようなら是非YouTubeでご覧ください。
いかがでしたでしょうか。皆さん総じてサクサク快適に動作しているといった評価でしたね。また、動画編集ソフトのAIを活用したトラッキング機能などに関してもNural Engineによって高速化されているようです。確かに単純な計算量が求められる書き出しのようなタスクでは最新のハイエンドデスクトップに一部劣る部分もありますが、やはりノートPCとしては驚異的な性能を有しているといえるでしょう。
また、注目すべきは処理性能以上にレスポンスがいいことです。どういうことかといいますと、単純な計算速度に強く依存する動画の書き出し等については必ずしもNo.1ではないものの、プロキシなしでも快適に編集ができたり、タイムラインカーソルの移動がスムーズであったりと最適化や計算性能以外も大きく影響する部分が非常に快適ということです。
この点については専用のメディアエンジンとCPU・GPUの分業が効率的にできていること、メモリやストレージが高速であること、OSやソフトの最適化ができていること、これらが結果としてレスポンスの向上につながっていると考えられます。コンピュータは処理性能が良くても必ずしもレスポンスが良いとは限りません。こればかりはOSまで含めた製品のチューニングが重要ですから、すべて自社で管理できるAppleの強みが最も表れている部分といえるでしょう。
ただ、動画編集を行う上で一つ注意点があります。今回のM1 Pro/Maxは、一般に広く普及しているHEVC(H265)やH264をはじめ、Appleが作ったProResなどは高速に処理できるのに対し、それ以外のAppleが押し出していない(乗り気でない)形式では上記のようなパフォーマンスが出せないという報告も多数上がっています。多くの人はHEVCやH264、使ったとしてもProResまでかと思いますが、もしお仕事でX-OCNなど一般には普及していないプロ向けの形式を扱われる方、または今後使う予定がある方は注意が必要です。
では次に楽曲制作系のソフト(DAWとプラグイン)を見ていきましょう。と、その前に一つお断りしておかなくてはならないのは、私自身楽曲制作の経験もなく音楽の知識もあまりありません。ですのであくまで素人調べの情報として参考程度にご覧いただければ幸いです。
ではまず、DAWソフトのApple Silicon対応状況ですが。主なところで言うとPro ToolsとStudio OneはApple Siliconにネイティブ対応、Cubaseは現在(2021/11/25)検証中で正式には未対応となっています。その他DAWソフトも含めた対応状況は以下の通りです (2021/11/25現在) 。こうしてみるとDAWはかなり対応が進んできたなという印象ですね。
- 対応
- Logic Pro X
- Pro Tools
- FL Studio
- Studio One
- 未対応
- Ableton Live
(最新ベータテストで対応)(Ableton Live 11.1~対応)
- Cubase
(検証中 Rosetta2で起動可能)(Cubase 12~対応)
- Ableton Live
2022年3月の時点でAbleton Live、Cubase共にApple Silliconにネイティブ対応となりました。これによりApple SilliconでもRosetta 2を介することによる性能低下等を避け、問題なく使用可能です。(2022/3/24追記)
楽曲制作にフォーカスして新型MacBook Proをレビューしてくれている動画をいくつか張っておきます。こちらもお時間が許すようなら是非YouTubeでご覧ください。
まず注意すべき点は、プラグインやツールを多用するDAWソフトの場合、Apple Silicon Macに対応していたり全体として正常動作していたとしても、一部機能が正常動作しないことがあるという点です。そういったバグは今後修正されていくとは思いますが多くのレビューでバグの報告があるので、DTM用途で購入をご検討されている方はその点に注意が必要かと思います。
では本題に入りましょう。まずAppleが開発しているLogic Proの動作については、自社の製品ということもあり快適なようです。また、Apple Siliconに正式対応しているStudio OneとPro Toolsについても快適に動作するというレビューが大半でした。上の動画内でも検証してくれていますが、複数のトラックを重ねた場合の再生、複数のプラグインを導入した作業、エフェクトを使用した作業、いずれも大きな問題はなくスムーズに作業ができるようです。
残念ながらWindows版との比較については有力な情報が発見できなかったため断定はできませんが、上の動画で動作を見た限りハイエンドノートPCやハイエンドデスクトップと同等かそれに迫る性能を発揮できているといってよいのではないでしょうか。さすがにプロの方が大規模な楽曲制作をされる場合はハイエンドデスクトップのほうが安心だとは思いますが、屋外でも作業をする方やプロでサブ機を探されている方、アマチュアからセミプロでメイン機を探している方にとっては非常に有力な選択肢といえるでしょう。
最後に3DCG系のソフトを見ていきましょう。と言いたいところなのですが、3DCG系のソフトは動画編集ソフトに比べて一般の使用者が少ないため、ネット上の情報があまり多くありませんでした。またこの分野は現時点でAPIにMetalを使用していないソフトや、Apple Siliconに対応していないソフトが多い分野でもあります。そのためApple SiliconのMacではRosetta 2が必要となる場合も多く、安定性や性能低下を考慮すると現時点で3DCGはちょっと厳しいのかなというのが正直なところです(仕事レベルで安定性や性能を要求しなければアリかも)。
ただApple Siliconにネイティブ対応したソフトに関しては下位のM1でも快適に動作するという情報もあり、一概に3DCGが厳しいとも言えないようなので、この用途でも検討する価値はあるかと思います。
現時点でApple Siliconに対応しているCinema 4Dの動作を比較した動画が見つかったので張っておきます。こちらも動画編集の時と同じような傾向で、レンダリング速度はデスクトップPCには及ばないまでも動作は快適になっているようです。
ここまでの実際の性能を総括すると、Appleが公式に押し出しているソフトは快適に動作し、ハイエンドデスクトップPCに迫るのパフォーマンスと快適性を発揮していると言えるでしょう。この点だけでも大きな価値があるのではないでしょうか。しかし、一方でAppleが推奨していない環境や、そもそもApple Siliconにネイティブ対応していないソフトに関しては性能が低下する場面が多いとも言えます。
先述の通りApple Silicon Macでも一般に有名なソフトは問題なく動作するようになってきましたが、依然としてMetalではなくOpen GL・Open CLを使用したソフトやApple Silicon Macを正式にサポートしていないソフトもあります(ごく一部だが)。また、こうした例が専門性の高いソフトに多いことも問題で、こうしたソフトは代替えが効かなかったり移行が難しい場合も多いです。もし今回のM1 Max/Proの購入をご検討されていて、専門用途のソフトを使われている場合、そのソフトがネイティブ動作するのか調べてから購入する必要がありそうです。
というわけで総合性能の評価に移りたいと思います。上記の結果のように総合性能を必要とする実動作の大半が快適だったことからも、ノートPCとしては各項目で驚異的なスペックを持ちながら、同時に性能のバランスも良いことが分かります。先述の環境やApple Siliconへの対応問題を除けば大半のソフトが問題なく動く総合性能を備えていると言ってよいでしょう。個人的には、実は尖った性能に見えて案外バランス型なのかなと感じました(個人の趣味では馬鹿が盛ったような計算性能にもロマンを感じますが)。
なお、ここまであまり言及してこなかったM1 ProとM1 Maxの性能差についてですが、実使用上のレスポンスにはあまり違いはないとのレビューが多数でした。とはいっても、全体的にM1 Maxの方が性能は高く、GPUのとメモリが重要にな処理ほど両社の差は開くようです。例えば動画の書き出しや3Dグラフィックのレンダリングの場合、M1 Max搭載モデルのほうが1.5~2倍ほど高速になる傾向があります。もし性能面でM1 ProとM1 Maxを迷われているようなら、自分のよく使うソフトがグラフィックの処理をどれだけ使うかで決めると良いでしょう。
では総合性能についてまとめていきます。今回のM1 Pro/Max搭載MacBook ProはCPU、GPUのいずれもノートPC向けとしては高い性能を持っています。また、そこに高速なメモリやメディアエンジンが組み合わさることによって、実使用ではハイエンドデスクトップに迫る、あるいは匹敵する高いレベルの総合性能を備えていると言えるでしょう。
全体的な性能のバランスを見てみると、一般ニーズの多い動画編集性能はメディアエンジンによって強化されていて、特に高い総合性能を発揮していると言えます。他の楽曲制作や3DCG制作については、まだApple Silicon未対応のソフトやプラグイン、バグが散見されることから現状メイン機に据えることは難しいものの、性能だけを見れば一級のプロの屋外作業用PCやサブ機として十分な性能です。個人の印象としてはニーズが多いところをより強化して、一般の方でも案外使いやすいバランスになっていると感じました。ぶっちゃけMetalやApple Siliconへの対応は時間とともに解決する問題なので、いずれ何の心配もせずにソフトを使えるようになると思います。やっぱりApple Siliconの性能、おそるべし!
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