2021年12月8日(日本時間)にバイコヌール宇宙基地(カザフスタン)から打ち上げられた宇宙船ソユーズに搭乗したZOZO創業者で実業家の前澤友作氏が、同9日から国際宇宙ステーション(ISS)に滞在したことで話題を呼んでいます。テレビやネットニュースでも大々的に報道され、民間人では初となる国際宇宙ステーション滞在(民間の宇宙飛行士を除く)であったことや、今回の宇宙旅行に100億円以上を投じたことなど、興味をそそる文言も相まってご存じの方も多いのではないでしょうか。
宇宙なう pic.twitter.com/A9vnUZTKJ5
— 前澤友作┃いま宇宙にいるよ (@yousuck2020) December 9, 2021
一般人が宇宙に行ける時代は近いかもしれない
今回のニュースは民間人でも宇宙に行けたという前例をまた一つ増やしてくれました (宇宙旅行に100億円をかけられる人が果たして所謂、民間人なのかは置いておいて) 。世界的な例では、ブルーオリジン(Blue Origin)が再使用可能な機体に民間人を乗せ、無重力空間(高度約100km)への飛行を成功させるなど宇宙を身近に感じさせてくれるニュースも増えてきたように感じます。
ここで気になるのは私たち”一般人”が宇宙に行けるのはいつになるのかということでしょう。現時点でブルーオリジンが提示している予定金額は2000万円以上。日本人男性の生涯の手取りが平均約2億円程度と考えると、一生の手取りの10分の1をたった一回、しかも数分間の旅行に使うことになります。もし正式サービス開始時にこの金額のまま実現できたとしてもかなりのハードルとなりそうです。
さらに宇宙旅行は地上や旅客機での旅行に比べ当然リスクが高くなるうえ、長期滞在となれば特殊な訓練も必要となります。 こういった部分も考えれば“今後数年のうちに”一般人が宇宙旅行に行くというのは難しいと言わざるを得ません。少なくとも現時点では富豪と言われる人以外には縁のない話でしょう。
しかし一方で”今後数年間のうち”は難しくても、もう少し長い目でみれば希望が持てるとも言えます。今後、宇宙船の性能や製造技術が向上すれば利用者が負担する打ち上げコストを減らすことも可能でしょうし、現時点でも複数の企業が宇宙旅行ビジネスに意欲的であることから、見通しが立てば将来的に価格競争も期待できます。つまりは、今後の技術の発展と、それに取り組む人や企業が現れるかどうか、そこに宇宙旅行実現の鍵があるというわけです。
私たちが生きている間には現在の海外旅行くらいの感覚で宇宙に行ける日がやってくる。そういった期待ができるくらいには現実味を帯びてきたといってよいのではないでしょうか。
学生など民間にとっても身近になりつつある宇宙
この先、高専や大学などの研究を含めて民間研究と呼んでいる箇所があります。こうした研究は一般的に民間研究とは呼ばないと思いますが、今回は学生が関われるというニュアンスも込めて民間研究と呼ばせていただいています。違和感を感じられるかもしれませんがご理解いただければ幸いです。
こうした民間への宇宙技術の浸透という点でいえば、企業や我々学生も例外ではありません。最近の例では全国10高専の学生が共同で開発した人工衛星「KOSEN-1」が打ち上げに成功するなど、民間で宇宙を目指す人々にとって嬉しいニュースも耳にします。
このKOSEN-1が積み込まれたのはイプシロンロケット5号機。イプシロンロケットには国家プロジェクトだけでなく、民間企業や研究機関(大学・高専など)研究目的で製作した衛星も搭載されます。このように以前は国家プロジェクトでしか打ち上げられなかった人工衛星を民間企業や学生たちでも打ち上げられるようになり、有人宇宙飛行とはいかずとも衛星を通じて宇宙に行くことも可能になってきたのです。
また半世紀以上ぶりの有人月面探査を目指すNASAのアルテミス計画ではスペースXをはじめとした民間企業の技術を取り入れるなどしており、国家的大規模プロジェクトの重要部分に民間企業が関わる機会も増えてきました。
筆者が思うに、こうした民間への技術の浸透が進んできた理由として次の3点が挙げられます。
- 研究開発への投資
- 技術の進歩
- 民間の研究への注目
先ほどの例で見てみましょう。まずブルーオリジンの例では、繰り返し使用可能で有人宇宙飛行が可能な機体を作る必要がありました。それには当然多額の研究開発費用が必要なわけですが、それを工面できたのは米アマゾン創業者であるジェフ・ベゾス氏の資産と実業家としての信頼、それによる投資があったからだと考えれれます。これは研究開発への投資が民間への技術の浸透を助けた例と言えるでしょう。
次にイプシロンロケットの例を考えてみましょう。イプシロンロケットに民間の衛星を搭載できるようになった背景には、ロケット技術の進化による打ち上げ重量の向上と低コスト化があります。これによりメインプロジェクト以外の衛星を搭載する余裕が生まれ、打ち上げ頻度を増やすことにも繋がりました。これは技術の進歩が民間への技術の浸透を助けた例と言えるでしょう。
そしてアルテミス計画の例では民間企業の宇宙船開発の研究に着目し、宇宙船開発に関する技術協力を打診しました。その結果、企業側は巨額の研究資金と成果を立証するまたとない機会を得ることができました。また今回のアルテミス計画が順調に進めば民間企業を積極的に取り入れた大規模プロジェクトの成功例となり、今後の民間研究の有効活用や成長につながるだろうと考えられます。これは民間の研究への注目が技術の浸透を助けた例と言えるのではないでしょうか。
こうしてみると宇宙技術の進化とそのための投資、そして民間研究に着目し適切に支援する体制が広い層への宇宙技術の浸透を助けていると考えられます。もしかすると今後、こう言った例に倣ってより多くの人が宇宙の最先端技術に触れられるようになるかもしれませんね。
今回はタイムリーな話題として前沢氏のISS滞在と宇宙技術を扱いましたが、民間への先端技術の浸透という点で見れば宇宙開発以外の分野についても同じことが言えるのではないかと私は考えています。民間企業や学生、ひいては一般人にまで先端技術が浸透するには従来それ相応の時間を要してきました。しかし今後、技術開発を加速させる上ではより広い層に技術を普及させ、社会全体で課題に取り組む、そういった体制があってもよいのではないかと感じました。宇宙開発を一つのモデルケースとして多くの人が先端技術に触れられる、そしてその開発に参加できる、そんな社会が実現できたらと願っています(笑)。
さて、現在進行形のニュースから話を広げたためにタラレバの話が多くなってしまいました。申し訳ないです、、、、最後のほうは完全なる筆者の理想論ですが、我々高専生や大学生、大学所属の研究者、民間企業の研究者といった人々が今まで手が届かなかったところに手が届くようになってきた、それは事実だと思います。更なる技術の進歩と普及を目指して、それではまた~
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