新型iPadシリーズ!! Apple Event 2021を高専生が分析!Part3

https://www.apple.com/jp/ipad/compare/?modelList=ipad-pro-12-9-5th-gen,ipad-mini-6th-gen,ipad-9th-gen より引用(2021/9/23)

製品に見る Apple の思惑と戦略

 ここからはiPadシリーズを中心としたApple製品から見えたAppleの思惑と戦略を紐解いていきましょう

流行とニーズを取り入れた機能

 今回のiPadシリーズから見えたのは流行とニーズを取り入れた製品づくりです。今回のiPadシリーズでは最廉価のiPadからセンターフレーム(Center Stage)を搭載しています。Appleの場合、こういった新機能は上位機種で採用したものを数年かけて下位モデルに普及させていくというのが通例でした

 そのパターンから見ると今回のように春に発売されたiPad Proで採用された機能が半年のうちに下位モデルに実装されたというのは意外でした。これは昨今のコロナウイルスの流行により、ビデオ通話の機会が増えたことを考慮してでしょう。

 また、今回の発表の中で子供の校外学習にiPadを使うシーンがあったりと、教育のディジタル化を進めている教育分野のニーズも意識しているのかなと思います。ほかにも医療現場での活用在宅時のお供として使われているシーンもありました。

https://www.youtube.com/watch?v=EvGOlAkLSLw より引用(2021/9/21)

 世界的なコロナウイルスのパンデミックや様々な場所で進むディジタル化のような、流行とニーズ意識した製品づくりというものが、最近のAppleからは感じられる気がします

Apple Silicon から見える効率化

Appleの苦悩

 ここが、私として一番話したかったところでもあります。Apple製品の利益率は競合他社に比べると高めです。それはなぜかというと、自社製品の大部分を自社で設計している分、その開発費を捻出しなくてはならないからです

 さらに言うと、経営面から見たAppleは株価で持っている部分があります。これは、株価が下がれば開発資金難に陥ることを意味します。そういった面でも株主を安心させられるような製品と利益率を保たなくてはなりません。(経済詳しくないので、間違っていたらツイッターでご指摘を)

https://www.google.com/search?q=apple+%E6%A0%AA&oq=apple+%E6%A0%AA&aqs=chrome..69i57j69i59l2.9156j0j1&sourceid=chrome&ie=UTF-8
より引用(2021/9/24)

 株価を見ればわかりますが、ここ数年Appleの株価は順調に上昇傾向です。そんなAppleを支える製品と利益率ですが、この両立は通常非常に困難です。考えてみれば当たり前ですが、利益率を出すためには原価率を下げる必要があります

 しかし、当然ながら原価を下げれば一般的に品質も下がってしまいます。そうすればユーザーの満足度は下がりますから、売り上げも落ちてしまいます。また、ブランドを前面に押し出すAppleからすれば、普通の企業よりもユーザーの満足度と信頼は重要度が高いでしょう

 このように利益率と品質というのは片方を上げるともう片方が下がるわけです。しかしAppleは利益率と品質をできる限り両立できるよう工夫しています。その工夫についてお話ししましょう。

Appleなりの答え

https://www.apple.com/jp/ipad/compare/?modelList=ipad-pro-11-1st-gen,ipad-air-4th-gen,ipad-mini-6th-gen より引用(2021/9/22)

 Appleが出した答え、それは製品の共通化です。どういうことか説明しましょう。今回の製品を見てみると、様々な部品を前世代やほかの製品と共通化していることが分かります。具体的な例で考えてみましょう。

 例えば iPad(第9世代)の場合、基本的な外観の設計が前世代と共通していますし、チップもiPhone 11で採用されたA13チップを使用しています。また、iPad mini(第6世代)の場合は筐体こそ新設計ですがA15チップはiPhone 13と共通になっています。

 これはiPadシリーズすべてに言えることで、昨年発売の iPad Air(第4世代)の場合、筐体は11インチiPad Pro(第1世代)の基本設計を引き継ぎ、チップがiPhone 12と共通のA14チップです。また、iPad Pro(第5世代)の場合は筐体の設計を前世代から引き継ぎ、チップはMacシリーズと共通のM1チップを使用しています。

 このような設計の共通化は、Apple製品のほかのシリーズにも見られます。設計を共通にすることで大規模な再設計や製造ラインの変更といった余計なコストをカットできますし、部品在庫の管理が容易になります。また、外部企業に部品を発注するときも大量発注することで単価を下げ、さらに大口顧客となることで値段交渉も有利に進められます。

 iPhone 13シリーズとiPad mini(第6世代)で搭載されたA15チップはよい例です。実は製品発表前にAppleが大量のA15チップを発注したことが分かっていました。これは複数の製品で共通の部品とすることで大量に仕入れ、チップの単価を下げることが目的だったのでしょう

 品質に影響が出ない所でコストカットして利益をあげ、大規模アップデートにコストを集中させる。あとは下位モデルにそのテクノロジーを流用することで、高品質な製品と原価率の高さを実現しているのだと私は考えています。このような手法はApple以外にも見られるので、これを踏まえて新製品のスペックを予測するのも面白いのではないでしょうか

自社製品内での差別化

 自社製品内での差別化には大きく分けて2種類の差別化があります。それはシリーズごとに差別化とシリーズ内での差別化です。ここでは前者を横の差別化、後者を縦の差別化と呼びましょう。Appleが製品を出すとき、他の製品と特徴が被らないように計算しています。

 先ほど製品の共通化と書きましたが、製品を共通のパーツで構成しながらどのようにして差別化を図っているのか、そこについて詳しく見ていきましょう。

横の差別化

https://www.apple.com/jp/store より引用(2021/9/22)

 まずは横の差別化です。ここでは特に“用途”と”機能”に着目して差別化を図っているように思います。

 例えば、動画編集、プログラミング、ファイル管理といったPC向きの作業ではMacの方が便利ですが、逆にタッチ操作やApple Pencilが使えるのはiPadだけです。また一方で、Apple Watchと連携させるなど、常に持ち歩く用途であればやっぱりiPhoneが便利です。

 このように横の差別化がしっかりとできているのは、ユーザーの言うことに左右されない一貫した姿勢があってこそだと思います。Appleはそこそこ万能な製品を作り、あえて完全に万能な製品を作らないことで、他のシリーズの売り上げを食ってしまわないように計算しているのではないでしょうか。

縦の差別化

https://www.apple.com/jp/iphone/ より引用(2021/9/22)

 Appleが縦の差別化を行うとき、意識しているのは“性能”と”新しさ”ではないでしょうか。

 まずは“性能”の差別化について今回のA15チップを例に見てみましょう。先ほども書いたように、新製品のうちA15チップが搭載されているのはiPhone 13シリーズとiPad mini(第6世代)です。

 第2回の記事iPhone 13 (mini)とiPhone 13 Pro (Max)ではGPUのコア数が違うとお伝えしました。これはグラフィック、つまり映像や画像の処理性能に影響します。これはおそらくチップの歩留まりの関係でグラフィックのコアを無効化したものと考えられます。そうすればチップのコストが下げられますからね。

歩留まり

製造した製品のうち、正常に動作する製品の割合。半導体は数ナノメートルから数十ナノメートル規模の加工が必要で、微細な塵などにより欠陥が発生することがある。多くの場合、欠陥が発生したコアを無効化すれば正常に動作するので、無効化したうえでコア数の少ない製品として販売されている。よって今回の iPhone 13 と iPhone 13 mini に搭載されているA15チップは欠陥が発生したGPUコアを無効化したものではないかと思われる。

 ちなみに今までは下位モデルでも上位モデルでもGPUコア数は同じだったので、これは新しい取り組みですね

 発表会を見ているとき、はじめは4コアと言っていたのに、あとから5コアと言われたので聞き間違えたのかと思いました(笑)。無効化されているとはいえ正常に動作するので問題ありません。半導体製品ではよくあることです。何より産業廃棄物が減るのでエコです。

 このように生産の効率を意識しつつ、同時に性能の差をつけることで差別化を図っているのです。

https://www.apple.com/jp/ipad/ より引用(2021/9/22)

 次に“新しさ”の差別化について iPad を例に見てみましょう。先ほど『流行とニーズを取り入れた機能』でも触れましたが、iPadシリーズは上位機種で使用された機能が下位モデルに普及していくというパターンが一般的です。つまり上位機種を買えば新しい機能が使えるわけです(今回のセンターフレーム (Center Stage)は例外)。

 これは先ほどの”性能”の差別化とも重なる部分がありますが、iPadの場合は最新のチップではなく2~3世代ほど古いチップが採用されるのが通例です。性能は最新のチップのほうが高いのは確かですが、多少古くても実用範囲内ですので、非常によくできたシステムだなと思います。

 Apple pencil第2世代の場合も見てみましょう。Apple pencil第2世代は2018年発売のiPad Proシリーズで初めて採用されました。その後、2020年発売のiPad Air(第4世代)、そして2021年発売のiPad mini(第6世代)といったように上位機種から順番に採用されて行っていることが分かりますね。

 このようにサイズや外観以外にも、“性能”と“新しさ”に差をつけることで、シリーズ内でしっかりとした差別化が出来ているのだと思います。

 いかがでしたでしょうか?このようにAppleのラインナップは縦と横、2種類の差別化がなされているのが分かったかと思います。このことを覚えておくとApple製品の購入時にどれを選べばよいかが分かりやすいのではないでしょうか?

他社との競争 ~A15の誕生秘話~

ここで話すのは非常にマニアックな話です
理系の言葉が嫌いな人は読み飛ばしてもらったほうが良いと思います
申し訳ございません。(o*。_。)oペコッ

 アメリカのIT企業は非常に競争が盛んです。製品の性能競争をはじめ、人材の引き抜きや買収といったこともよくおこなわれます。こういっては何ですが結構えげつないです。今回はその中からA15誕生の裏側のエピソードとそのすごさ紹介したいと思います。きっと昼ドラのドロドロとした展開が好きな人にとっては非常に面白い話だと思います(笑)。

 今回のA15チップの裏側にはアメリカのIT企業同士の競争が見え隠れしています。どういうことかというと、主にQualcommとの人材争いと製品開発競争です。実はA15チップの開発中(2019年)にCPU開発部門のチーフアーキテクト(CPUの設計の指揮を執る立場)が、かなりの数のエンジニアとともに移籍してしまったのです。

Qualcomm(クアルコム)

モバイル端末向け半導体を主に製造する大手企業。主にスマホ向けSoCや通信用モデム(4Gや5G通信に必要な部品)で大きなシェアを持つ。そのためスマートフォン業界ではAppleとライバル関係にあり、最近までAppleを相手取り裁判もしていた。その裁判自体は和解した。

 そして、この移籍先がNuviaという企業です。このNuviaという企業はQualcommが買収し、現在は子会社となっています。ちなみに、このNuviaもアップルのエンジニア3人が独立して立ち上げたベンチャー企業です。

 このように、Appleから優秀なエンジニアが独立したり、引き抜かれたりしてしまっている状況というわけです。そのためAppleは人材不足に悩んでいると様々なメディアが報じています。最近の発表会が事前のリークよりも遅れ気味なのは、人材不足からくるの開発の遅れが原因だと私は考えています。

 こうした人材流出が原因で、今回のA15チップのCPU性能の上り幅は小さくなっています。下の画像はA14チップ搭載 iPad Air(第4世代)のスライドとA15チップ搭載 iPad mini(第6世代)のスライドになります。どちらも同じA12 Bionicチップとの比較ですが、性能の上り幅が40%と同じになっているのがお分かりいただけるでしょうか。

A14チップ搭載 iPad Air の発表(51:56)
https://www.youtube.com/watch?v=b13xnFp_LJs&t=3106s
より引用(2021/9/23)
A15チップ搭載 iPad mini の発表(20:15)
https://www.youtube.com/watch?v=EvGOlAkLSLw&t=1215s より引用(2021/9/23)

 同じ基準からどちらも40%の性能向上ならA14とA15の間にCPU性能の差はないことになってしまいます。さすがにそんなことはないだろうと思って調べると、現在分かっている情報ではA15のほうがA14に対してシングルコアで約10%、マルチコアで20%のCPU性能が高いといわれているそうです

シングルコア・マルチコア

CPUは通常複数のコアを持っており、そのうち1つのコアを指して言うのがシングルコアすべてのコアを指して言うのがマルチコアである。また、コアというのは一つの計算機としてのかたまりをさす。一般的なCPUの場合コアごとに別の処理をさせることも出来る。

 どのようなソフトを使い、どのような環境でテストしたのかが分かっていないので明言は避けますが、確かに今までの進化に比べると微妙ではありますね。

 しかし、重要なのはここからです。今回のAppleの凄いところは、こんな逆境にありながらGPUとNeural Engine(機械学習専用の計算機)をさらに進化させ、ソフトウェアと一体の設計で性能を上げてきたことです。

 Apple曰くA14チップのGPU性能はA12チップ比で30%アップだったところ、A15チップのGPU性能はA12比で80%の性能アップとのことです。この値を信頼して計算するとA15はA14に比べて約38%ほどGPU性能が向上したことになります。これが本当ならかなり期待が持てますね。

 また、Neural Engineについても、A14チップが秒間11兆回の演算だったのに対し、A15チップでは秒間15.8兆回の演算ができることになります。この機械学習に使う計算がQualcommのSoCと同種の8ビット整数演算だったと”仮定すると”演算回数だけでは及びません。しかし、十分に大きな進化といえるのではないでしょうか

 仮定の根拠この記事ですが確実ではありませんので悪しからず。Appleさん、ちゃんと単位をつけて教えてください。お願いします(笑)

8ビット整数演算

現在話題の機械学習(AI実現の手法の一種)だが、その学習にも様々な種類の計算が使われている。そのうち整数値かつ精度が8bitの数値を使った演算を8ビット整数演算という。単位はTOPS(Tera Operations Per Second)が使われる。機械学習では用途ごとに16bit浮動小数点など様々な種類の計算が用いられる。

 ちなみに昨年発表されたSnapdragon 888のAIエンジン性能は26TOPS、現行の最新フラッグシップのSnapdragon 888+は32TOPSです。T(テラ)は10の12乗倍なので1兆倍を表します。つまりSnapdragon 888とSnapdragon 888+はそれぞれ秒間26兆回と秒間32兆回です。やっぱりQualcommすごいなぁ。

 話を戻しましょうこのように“単純な”計算能力ではQualcommのチップに及びません。しかしiPhoneやiPadがすごいのは、OSの最適化で性能を最大限まで引き出しているところです。

 競合他社はSoC、本体、OSを作る企業が別であることが多いですが、Appleの場合はすべて自社設計なので最適化しやすいのです。このアドバンテージを生かし、実際のアプリケーションの動作は競合他社に負けない、もしくは上回るレベルで快適に仕上がっています。

 つまり、OSを含めたソフトウェアも一体で性能を発揮するSoCというわけですね。

 ちなみにベンチマークソフトごとに特徴が異なるので、端末を比較するときは複数のベンチマークを見て決めましょう。個人的にはいろいろな項目を実用的な尺度で測定できるのでAnTuTu Benchmarkがおすすめです。

 注意すべきなのは、OSが違う場合はベンチマークスコアの単純比較ができないことです。例えばAndroidバージョンのベンチマークのスコアとiOSのベンチマークスコアが同じであったとしても、性能が同じわけではありません。

 また、OSとベンチマークスコアが同じでも実使用の快適さが同じというわけでもありません。ですので、ベンチマークスコアはあくまで処理性能の目安にとどめて、実機を動作を比較して決めるのが理想でしょう

まとめ ~iPadシリーズ~

 ここまで長い記事を読んでくださった皆さん、本当にありがとうございます。皆さんは今回のiPadシリーズをどう思われましたか? 私個人としては非常に心強いアップデートになったのではないかなと思います。各社新製品に対する意見もぜひ「#WithKOSEN」でお知らせください

 今回ユーザーからの需要に答えたAppleですが、今後 ユーザーや他社の製品に対して、Appleがどのような動きを見せるのかにも注目ですね。また、私個人としてSurface Pro 8を購入予定ですので、レビューに加え、iPadシリーズやMacシリーズとの比較も予定しております。もう少々お待ちください。

 さらに、この年末から2022年初めにかけての期間でフラッグシップSnapdragonの発表や、各社独自チップを搭載したスマートフォンの発売もあるかと思います。Appleの発表も近いうちに開催されるという予測がありますので、そちらも含め新製品が発表され次第記事にしたいと思います。今後もIT業界から目が離せませんね!

 また、記事が出たタイミングでTwitterでお知らせいたしますので、Twitterのフォローもお待ちしております。もしお時間が許すようでしたら#WithKOSEN」をつけて感想をお聞かせください。 あなたのご意見が改善につながります!ぜひよろしくお願いします。それではまた~

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